ヨーロッパ 静止した時間2017年08月25日

 未だに見ていない写真集があると思い出した。それは奈良原一高の「ヨーロッパ 静止した時間」だ。50年前の1967年に発行された。
 発行部数が少なかったようで、私が欲しいと思った19歳の頃、3,800円の本は神保町の古書店で3万円を越えた価格になっていた。
 増刷、再版もなく今に至る。今でも古書店では3万円から5万円する。
 まさかと思って調べてみると、福岡県立図書館に蔵書があった。そして借り出せたのである。本の箱はなく本体のみだった。篤志家が寄贈したものだった。だから、他県の図書館にも蔵書があるとはいえない。福岡は文化的なところなのだ。
 135枚の写真がある。右の95枚目の写真をどこかで見たことがないだろうか?
 いかにも「ヨーロッパ 静止した時間」のタイトル通りの写真だ。このような写真ばかりだったら分かりやすいが、実際は分からない写真のほうが多い。ストレートフォト好きの私には退屈きわまりないが、分からない写真にどういう意味を込めているのかと考えていくと退屈さは失せる。私が勝手に解釈すればいいことだから。
 写真集は、ある意図をもって写真が1ページ目から並べられているものだ。編集されているといっていい。
 この写真集は、1.塔、2.窓、3,午後、4.樹、5.化石、6.秘密、7.夢、8.静止した時間と区分けされている。
 ヨーロッパはキリスト教の歴史の長い国々が集まっているところだ。1の塔は教会の尖塔、キリスト教のイメージの建物を含めた光と物の写真が続く。生きた人間、動物は写っていない。
 11枚目の写真はPhotoshopのなかった時代に、なんとか合成したものだろうが、おおっと驚くほどのいい感じの表現だ。
 3の午後になって、37枚目、唐突に髪の白い婆さんと若い女性が大きく出てくる。
 女性が持っているミラーで店から出てきた婆さんを映して撮ったものだろう。それよりも、どういう意味を込めているのだろう。
 続く次のページの38枚目にも同じ女性が、シャンデリアにぶら下がっているようなガラズの塊に写っている。右隣の39枚目は夏服の修道女だろう。黄色の合羽の女性は雇ったモデルだろうが、イメージでは女神ミューズなのだろう。婆さんの運命は私の手のうちにあるのよ、といっているのだろうか。
 43枚目、44枚目には眼鏡を使って撮った写真もあって面白い。
 フランス、イタリア、スペイン、イギリス、オーストリア、ポルトガル、オランダを回って撮った写真集だが、ヨーロッパの観光写真集ではない。どこの国で撮ったかを一見では分からない。
 89枚目の写真に私が見た尖塔が写っている。スペインのバルセロナにあるサグラダファミリアだ。私が分かった撮影地はスペイン、イタリア、オランダぐらいだった。オランダのそれは人物が木靴を履いていたからだ。
 馬、鳩などの動物がキーワードになっている。自動車ができる前までは馬が動力源だったヨーロッパだ。鳩はやたらとページの中に出てくるが、確固とした意味が分からない。写真に動きを与えるため、つまり時間というものを意味しているのだろうか。
 8の静止した時間になってから人々がどどっと出てくる。でもラストは老婆が椅子へ坐る3枚の写真、皺くちゃ婆さんのポートレート、そして最後は天使たちのイコン。
 人生は棺桶に入るまでの暇潰しで、つかの間なんだよ、と私は写真集のイメージを受けた。というか、世界を旅するようになってからそう思っていた。
 装丁を含めて、センスのいい写真集だ。世を去る前に、この写真集を見られて私の願いは叶った。コンピューターを駆使して写真を作れる今の時代では、このような表現の写真集は流行らないだろうが、こんな写し方もあるのかという面白さがある。

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